Dear Hero
「みず…しま……?」



水嶋の姿に驚くのも無理はない。
だって、今日これから会う約束している人物がここにいるというのだから。

それともう一つ。


「ふふっ可愛くなったでしょー!」


姉ちゃんが自慢げに俺の目の前に連れ出した水嶋は、今まで俺が見ていた水嶋の姿と違っていたから。


短くなった前髪。
外された眼鏡。
濃くはないけど、ほんのり表情を色づけるメイク。
ゆるく巻かれてアレンジされた髪型。
ふんわりとした薄いピンク色のトップスに黒いショートパンツからはあの日チラリとだけ見えた太ももがさらけ出されている。

あまりの変貌ぶりと、隠すものをなくして露わになる少し頬を染めた水嶋の表情に目が釘付けになる。

「水嶋……?」
「澤北くん、あの……服着てください……」
「おわああ!!」

目を合わせずに呟かれた言葉に、半裸状態だった事を思い出し慌ててTシャツを着た。
よかった…ジャージ穿いててよかった…
パンツ見られてたら俺、もうお嫁いけなくなる。


「最初見た時からこれは原石!と思ったけど、磨いたら思った以上に輝いちゃった」

にんまりと笑う姉ちゃん。
姉ちゃんは美容師の専門学校に行ったくせに、最初に勤めたサロンで下っ端のハードさに耐えきれずに半年もしないうちに逃げ出している。
今は美容部員として働いているから、今度は化粧品の知識とスキルが身について。
それでこうやって、時々自身や颯希の友達を手にかけて楽しんでいる。

きっと水嶋を見たらこうなるだろうなと思っていたから、水嶋をうちに呼ぶ時はできるだけ姉ちゃんがいない日を狙っていたのだけど…。


最初にうちに呼んだ日。
母さんの手料理を食べて感動したのか、「すごい!」「美味しい!」を連発し、「あらあら、そんなに美味しそうに食べてもらえるとこっちまで嬉しくなっちゃうわ」と母さんの心を掴み、「またいらっしゃい。よかったらお料理教えるわ」と言う母さんの誘いに甘えて、何度かうちに来ている。
その何度かを姉ちゃんのいない日にしていたのだけど、「店長が急に休んだから早番になった」と突然帰ってきたのが一昨日の夜。
リビングで食事をしていた水嶋を見つけた途端、目をキラッキラさせて口説いてたっけ。


「今日も大ちゃんとお出かけするって言ってたから、ちょっと早めに来てもらったんだよねー」

だったらそう言っといてよ…。
こっちはびっくりするじゃんか。


この服、前に姉ちゃんが着ているの見た事ある気がするけど、水嶋が着るとどうしてこうも魅力的に見えてしまうんだ。

まだ見慣れぬ水嶋の姿を直視できなくて、動揺を隠すように左手で口元を隠す。

「あ、大ちゃん照れてる!手で口元隠すのは照れた時の大ちゃんのクセだよ」
「ウルサイな!言うなよそういう事!」

俺の怒声なんか気にも留めずに「サプライズ大成功だねー!」とキャッキャする二人。
…正確にははしゃいでるのは姉ちゃんだけで、水嶋は自身もまだ見慣れていないのかそわそわしたままだけど。
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