秋の月は日々戯れに
「だってほら、とても安らかな顔をしています。楽しくなかったなら、あんな顔では寝られませんよ」
「そりゃあ、そいつは楽しかったでしょうよ。好きに飲んで食べて喋って、終いには寝てるんですから。でも、俺はこれっぽっちも楽しくなんかありません」
もしも後輩が最後までしっかりと意識を保って、自力で家まで帰ってくれたなら、多少は楽しかったのかもしれないが――。
「先輩とは、後輩を育ててあげるものですよ。公私に渡って頼りにされてこそ、真の先輩というものです」
「そんな面倒くさいものになりたいと思ったことは一度もありません」
受け取った上着やネクタイの代わりに、彼女が畳んだばかりの洗濯物から着替えを抜き出して渡すと、受け取った彼は当たり前のように風呂場へと向かった。
「お風呂、沸かしましょうか?お湯は張ってあるんですよ」
「……酔ってはいませんけど飲んだので、今日はシャワーで済ませます」
「じゃあ、部屋を温かくしておきますね」
彼が風呂場に見えなくなるのと同時に、彼女はエアコンのスイッチを入れる。