秋の月は日々戯れに

通風口が開くと、温かい風が部屋に向かって吹き出した。

彼女には温度感が伝わってこないけれど、とりあえずエアコンが動き出したのを確認して満足げに頷く。

風呂場から聞こえるシャワーの音を聞きながら、彼女は受け取った上着とネクタイをしまって、それからやりかけの洗濯物を畳んでしまおうと床に腰を下ろす。

その時


「…………か、ちゃん……」


微かに、声が聞こえた。


「……赤ちゃん?」


声のした方に視線を動かしてみると、ベッドの上、彼女の方を向くようにして寝返りを打った後輩が、また僅かに口を動かす。

今度は先ほどよりはっきりと、誰かの名前を呼ぶ声が聞こえた。


「赤ちゃんではないですね。それとも、それがあなたのお子さんの名前なのでしょうか?」


とても子供がいるようには見えないけれど、人を見た目で判断してはいけないとはよく言われていることなので、彼女は近寄ってまじまじと後輩の顔を見つめる。


「それがお子さんの名前だとしたら、きっと女の子ですね」
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