秋の月は日々戯れに
誰に語りかけるでもなくポツリと感想を呟いて、彼女は膝頭に手を置いてしゃがみ込む。
後輩の口から何度も何度も零れ落ちるその名前は、寝言であるにもかかわらず、とても大事そうに愛おしそうに紡がれているのが伝わってくる。
後輩の声に耳をすませながら、彼がそんな風に愛おしげに自分の名前を呼んでいる姿を想像して、彼女は密かに照れ笑った。
「……なにニヤニヤしてるんですか。きも……怖いですよ」
何とも聞き捨てならないセリフが聞こえて、彼女は勢いよく振り返る。
「今、気持ち悪いって言おうとしましたね!」
タオルで髪を拭きながら歩いてきた彼は、冷蔵庫を開けて緑茶の入った容器を取り出す。
「言おうとしたけど、途中で止めたからギリギリセーフです」
「完全にアウトです!」
彼女の抗議をいつも通りサラッと流して、彼はコップに注いだお茶を一息に飲み干すと、またタオルでガシガシと髪を拭きながら歩き出す。
「ちょっと、速すぎるんじゃないですか?ちゃんと温まったんですか」
「上から下までシャワーで軽く流しただけなので。あんまり長々使ってると、隣近所から苦情が来るかもしれませんし」