秋の月は日々戯れに

幽霊が健康について語っているのを不思議な気持ちで聞きながら、彼は黙々と空き缶を拾ってはゴミ袋に入れていく。

こうして普通に話していると、彼女はやはり生きている人間と何も変わらない。

けれど、ふと顔を上げてその足元に視線を移すと、やはりそこは向こう側が透けている。

受付嬢も後輩も同僚も、誰一人としてそのことに気がついていないのが不思議でならないくらい、彼女からは“生”の気配が一切感じられない。

季節感をまるで無視したワンピース、異様に青白い肌、段々と色を失って透けていく足元。

生きてはいないのに、彼女は生きている者と同じように、笑ったり喋ったり、自称彼の妻としての生活を日々楽しんでいる。


「どうしたんですか?……あっ!もしかして」


考え事をしていたらつい長々と見つめてしまっていて、その視線に気がついた彼女は、不思議そうに首を傾げたのも束の間、ぱあっと顔を輝かせる。


「見惚れていたとか断じてありませんからね」

「まだ何も言っていません!」


彼女が続けようとした言葉なんて言われずとも予想はつくから、先手を打って言い返したら、途端に輝いていた顔が不機嫌そうに変わった。
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