秋の月は日々戯れに
「意地悪な人には、物凄く苦いコーヒーをおみまいしてやりますからね」
「いいですよ、別に。俺はどこかの誰かさんと違って、コーヒーの色を見ただけで胃が痛くなったりしませんから」
「受付嬢さんに失礼ですよ。謝ってください」
「あなたのことですよ!」
それからまたいつもの調子で言い合いを始めた二人を、受付嬢はにこにこと笑って眺める。
「全くもう、困った人です」
「こっちのセリフですよ」
肩をすくめてみせる彼女に、彼も負けじと言い返したところで、一瞬だけ静まった部屋にクスッと押し殺したような笑い声が響いた。
二人の視線が同時に声のした方に向くと、そこにいた受付嬢は「すみません、我慢できなくて」と口元を抑えてまた笑う。
「お二人は、本当に仲がいいんですね」
「はい、仲良し夫婦です」
「いや、断じて違う」
声を揃えて正反対のことを言う二人に、受付嬢はまたクスッと笑う。
「本当に、あなたは照れ屋さんですね」
「照れてません!」
さっきまでの不機嫌さはどこへやら、嬉しそうな笑みに鼻歌まで歌いながら、彼女は上機嫌でお湯を沸かし始める。