秋の月は日々戯れに
伸ばした手を何事もなかったかのように引っ込めて、彼は天井を見上げた。
片腕に感じる確かな冷たさだけが、彼女がそこにいることを伝えてくれている。
普通はそこが温かさであるところだが、彼女の場合は存在が”普通”ではないからしょうがない。
彼は、天井に向かって深く息を吐き出した。
「触れてみなくて、いいのですか?」
そんな時、隣から唐突に聞こえてきた声に、吐いていた息がピタッと止まった。
視線を向けてみると、パッチリと目を開けた彼女が彼の方を見上げている。
「起きてたんですか」
「そもそも、寝ていたわけではありません。目を閉じていただけです」
至近距離から見上げてくる視線に、不覚にもドキッとしそうになって、彼は慌てて目を逸らす。
彼女は幽霊なのだ、いくら妻を自称していたってその正体は幽霊、ときめくなんて絶対にありえないし、あってはならない。
今のはただ、起きていたという事実にビックリしただけだと自分に言い聞かせる彼を、彼女はなおも真っ直ぐに見つめる。
「触っても、いいんですよ」