秋の月は日々戯れに
餅巾着は、当然のように一番手前にその存在を主張するように鎮座していた。
チラッと伺うと、スーツをハンガーにかけ終えて戻ってきた彼女が、彼の隣に腰を下ろしてツンっとすましている。
どうやら、一番に箸を伸ばしたくなるような場所に餅巾着を盛ったのはわざとらしい。
「美味しいですね、おでん!」
はふはふと口を開閉させながら、受付嬢は笑顔で次々頬張っていく。
問題の餅巾着にかぶりついたあとも、その笑顔は変わらない。
ということは、今回の餅巾着は普通に美味しいということなのだろうか――。
「やっぱり、油揚げに餅を詰めるだけで微妙なものを作り出すってのは、無理があるよな……。そんな単純作業で」
餅巾着をジッと見つめながら呟いた言葉に、彼女がまたムスっと膨れる。
それに気づかないまま、彼は一番手前で存在を主張している餅巾着をとりあえず箸で摘んだ。
その瞬間、巾着の口からとろりと溶けた餅が溢れ出す。
何となく嫌な予感がしてそっと鍋の中を伺うと、どの巾着からもトロトロと餅が溢れ出していた。
チラッと彼女の方を伺うと
「あなたには、特別形がいいものを選んでおきました」
シレっとそんなことを言う。
「それはどうも」