秋の月は日々戯れに
齧り付いた巾着から、またドロっと熱い餅が溢れ出す。
やはり彼女が作るものは、特別不味くもないけど、かと言って旨くもないというのが鉄則らしい。
「絶対今失礼なことを考えましたよね」
「気のせいじゃないですか」
「気のせいだという証拠はどこにあるんですか」
「……めんどくせぇ」
「聞こえていますよ!」
「今のは心の声なので、気にしないでください」
彼女が怒って何か言っている声を聞き流しながら、彼は餅巾着を食べ終えて次はちくわを箸で摘む。
「聞いているんですか!こんなにも妻が怒っているというのに、よくもそんな平然と」
「はいはい、すみませんでしたね」
「全然、ちっとも、心がこもっていません!」
「大体あなたは……!」とまだ続く彼女の怒りの声を聞き流し続けてふと顔を上げると、ぼんやりと自分達を見つめている受付嬢の姿が視界に映った。
それは彼の家に来る途中、コンビニの中でアイスを選ぶカップルを見つめていた時と、どこか似ていた。
「見すぎですよ、浮気ですか。妻を隣にしてよくそんな堂々と」
「……なんでそうなるんですか、違いますよ」
「どうでしょうね。あなたには前科がありますから」
「……前科とか言うの、やめてもらっていいですか」