秋の月は日々戯れに

それからしばらく、誰も何も言わない。

当事者である受付嬢も同僚も、話を振った彼も、それを促した彼女も――。

誰も何も言わないままに、時間だけが過ぎて行く。

話を振ったのは自分だけれど、その重たすぎる沈黙に耐え切れず、彼は小さく息を吐いた。


「幸せが逃げますよ」


彼女が囁くようにたしなめる声に、彼は「今のはため息ではありません」と返して、カップに残ったコーヒーを啜る。

立ち上がっている同僚と、座ったままの受付嬢の視線は、一向に交わる気配がない。

二人をチラチラと交互に見やって、彼はまたため息によく似た息の吐き方をした。

沈黙が、どうしようもなく長くて、重たい――。


「他人にはどうでもよくて、至極単純に思えるような問題でも、当事者にとってみれば、それはとても大切で、複雑なことだったりするんです」


唐突に、彼女が囁いた。

隣にいる彼にだけ聞こえるように、小さく小さく。

彼が隣を伺うと、彼女はそっと視線を上げて目を合わせ、にっこりと笑ってみせる。
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