秋の月は日々戯れに
ぼんやりと遊具を見つめる寂しげな瞳は、決して彼のアパートの方を見ようとはしない。
「理由は、教えてくれないんすよ。ただ、待てなくなったら言って欲しいって、それだけ」
同僚の話を聞いたあとである彼には、理由を推測することはできるけれど、本当のところは本人にしか分からない。
だから、何も言わなかった。
「……ただ待ってるのって、辛いっすね」
噛み締めるようなその言葉に、安易に“そうだな”とは返せなかった。
空虚な慰めも、安易な同意も、きっと求められていないから――だから、彼は黙って話を聞きながら、両手で少し熱いくらいの缶を握り締める。
「でも、さやかちゃんがそうして欲しいって言うなら……オレは、いつまでだって待ってます。ただ待ってるのは辛いけど……今でもさやかちゃんが、オレの事を好きでいてくれるなら……」
「嫌いじゃないってことは、そういうことでいいんすよね?」と確認するように後輩が問いかける。
その問いには「いいんじゃないか」と彼は答えた。
安易だったかもしれないけれど、後輩の表情が安心したように緩んだから、これはこれで間違えてはいないはず。
「それだけ分かってれば、オレは充分、待てる自信があるっす」
握り締めた缶から、手の平にジンジンと熱が伝わってくる。