秋の月は日々戯れに
ドアを開けて真っ暗な室内に足を踏み入れたとき、テーブルの前に正座する白い物体が視界に映って、思わず引きつったような悲鳴が漏れた。
その声に反応して、真っ直ぐ対面を見つめていた横顔が、わざとらしいほどにゆっくりと動く。
暗闇に白く浮かび上がる女性、青白いその顔に無言で見つめられるうち、恐怖が全身を駆け抜けて、体がブルっと小さく震える。
お互いにしばらく無言で見つめ合い、耐えられなくなった彼が壁のスイッチに手を伸ばして電気をつけたところで、彼女が小さく口を開いた。
「おかえりなさい。随分と遅いお帰りでしたね」
小さいけれど不思議とよく通る声は、しっかりと彼の耳へも届く。
それはわざとなのか、淡々とし過ぎている声はなんだか責められているような気がして、責められるいわれのない彼にしてみれば、それはどうしようもなくカチンとくる。
「別に、あなたには関係ないでしょ。遅く帰ろうがどうしようが、俺の勝手です」
いつもならここで”なんてことを言うんですか!”とか”わたしは妻なので関係なくはありません”と返されそうなところだが、今日の彼女はやけに大人しい。