秋の月は日々戯れに
感情を全く伺わせない表情で彼を見つめ、無言で立ち上がったかと思ったら、透けた足で宙を漂うように歩いてきて、あとほんの数歩で彼に手が届くところで立ち止まる。
ひとしきり無言で彼の顔を見つめた彼女は、やがて何も言わずに横を通り過ぎて、風呂場の方に見えなくなった。
「……なんだよ」
いつもとはだいぶ違うその態度を不審に思いながらも、追いかける気がさらさらない彼は、ひとまず着ていたものを脱いで寝る支度を始める。
ふとテーブルに視線を向けると、夕飯のつもりだったのか、そこにはオムライスが置いてあった。
近づいて見てみれば、ご飯をくるんだ黄色い玉子の上には、ケチャップで不格好なハートマークが描いてある。
ハッとしてキッチンスペースに視線を移すと、予想に反してそこは、今朝出て行った時と変わらずスッキリと片付いていた。
どうやら、ポルターガイストのコツを掴んだというのは本当だったらしい。
もう一度テーブルのオムライスに視線を移し、それから振り返って彼女が向かった風呂場の方を伺う。
そこで何をしているのかは知らないが、戻ってくる気配はないし、元々彼女に気配なんてないから、本当にそこにいるのかどうかも分からない。