秋の月は日々戯れに

笑顔に戻って、とても自然にその問いをはぐらかした。

夕飯の鍋の話をして、テレビの話をして、会社での彼の話まで会話が進むと、もう自分の問いに答えがなかったことなんて、同僚はすっかり忘れていた。

そして、別の話題で盛り上がる。

結局、生まれはどこなんだ――と疑問を抱いていたのは、二人の前を歩いていて会話に参加していなかった彼だけ。
そんな彼の耳に、不意に三回連続で軽快な音が聞こえた。

またも聞き覚えのあるそれはメッセージアプリの受信音で、彼がチラッと首だけで振り返ると、鞄からスマートフォンを取り出した同僚が、液晶画面に視線を落として唇を噛み締めるのが見えた。

どこか悲しそうな、今にも泣き出しそうなその表情は、なんだか見てはいけないものを見てしまったような気がして、彼はそっと視線を前に戻す。

何も見なかったことにして、何も気づかなかった振りをして歩き続けていたら、唐突に彼女の声が聞こえた。


「あっ、ほら!見てください、満月です」


明るい声音に釣られるようにして顔を上げると、彼の視界いっぱいに灰色の雲に覆われた空が広がる。
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