秋の月は日々戯れに
「俺が送って行きますから、大人しくしててください」
「大丈夫ですよ。大人しく、ついて行きますから」
「ついてくるなって言ってるんです!」
同僚には聞こえないように声を潜めた彼の抵抗も虚しく、結局三人揃って家を出る。
「あっきー、流石にその格好は寒いんじゃない?」
袖口がフリルがかった白いワンピースは半袖ほどの長さしかなく、明らかに今の季節向きではない。
それを見て流石に心配そうに声をかける同僚に、彼女は「平気です」と笑った。
当然だ、だって彼女は幽霊なのだから。
「わたし、こう見えて寒いのに強いんです。ほら、真冬でも半袖半ズボンの子供ってたまにいるじゃないですか。あんな感じです」
それとこれとは絶対的に何かが違う――と思いはしたが、突っ込んだってしょうがないので、彼は黙って閉めた鍵をジャージのポケットに入れて歩き出す。
「へー、あっきーって色白だから体弱そうに見えるけど、意外に強いんだね。あっ、もしかして、生まれはもっと雪深いところだったとか?」
同僚の問いかけに、彼女はほんの少し困ったような顔をしたが、すぐにまた笑顔に戻る。