秋の月は日々戯れに

その瞬間、思い出したように寒さが足元から這い上がってきて、彼の体がブルっと震える。

それを見た同僚が「ほんと寒がりだよね。少しはあっきーを見習いな」と笑った。

それに乗っかるようにして彼女も「どーんと見習ってください!」なんて言うものだから、彼はもう突っ込む体力を歩く方に回すことにして、黙々と足を前へと動かす。


「あれ、拗ねた?」

「そんなところも可愛いですよね」

「はいはい。もうお鍋でお腹いっぱいだから、惚気けはまた今度」


好き勝手なことを言いながら続く足音を聞きながら、彼は黙って駅を目指す。

もちろん聞こえてくる足音は一人分、でもついてくるのは間違いなく二人で、それはなんだか不思議な感覚。


「次は、チーズフォンデュなんてどうですか?」

「ああ、いいね。あたしチーズ好きなんだ。その時のお土産は、チーズに合うワインにするよ」


そこから始まったチーズフォンデュの話で、二人はひとしきり盛り上がる。

定番の食材から、それは絶対おかしいだろと突っ込みたくなるようなものまで、二人して楽しそうに案を出し合いながら、どんどん計画を立てていく。
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