One Night Lover
「池田華乃さん、ありがとう。

後は自分で整理するからもう行っていいよ。」

竜にキスをされ茫然としていた華乃は
その言葉で我に帰る。

「し、失礼しました。」

何とか気を確かに持って部屋を出ようとすると
竜がまた声をかけた。

「池田華乃さん、呼んだら必ず来るように。」

華乃は怯えたように頷いて部屋を出て行った。

竜はそんな華乃を見て

「絶対、惚れさせてやるからな。」

と呟いた。

華乃は席に戻って冷静になろうとするが、
今のキスの意味をどう解釈したらいいか分からず
頭の中はパニック状態だ。

行きずりの男と寝るような女だと思われてるだろうし、華乃が初めてだったこともバレていた。

もしかしたらこれから何度も身体を求められるかも知れないとか
勝手な想像をして胸が痛くなる。

何より竜があの夜の酔っ払った自分が記憶していた男より
現実はもっとずっと素敵な人だったことに驚いた。

さっき重ねた唇を指でなぞり、
華乃はまたあの夜の竜との情事の記憶が蘇ってくる。

昼休みになって部長室の扉が開いた時
華乃は瞬間的に竜の顔を見ないようにした。

目が合ったら心を奪われそうな気がした。

そんな華乃の前に健が逢いにやってきた。

「池田さん、旦那さんが来てる。」

健を見て隣の席に座る社員が華乃に声をかけた。

「華乃、話がある。

ちょっと外に出よう。」

その様子を竜が見ていた。

(あの男は誰なのだろうか?)

竜は華乃を訪ねて来た男の存在が気になった。








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