One Night Lover
竜は華乃と健の仲が気になり
華乃にカマをかけてみようと思った。

「池田さん、ちょっと。」

藤ヶ瀬に呼ばれて華乃は少し落ち着かない。

部長室に入ると竜が華乃を応接用のソファに座らせ、自分は華乃の正面に座った。

「何でしょうか?」

「最近はどう?

結婚式は決まった?」

華乃は怒ってるみたいに

「まだ決まってません。

話ってそれですか?」

と強い言葉で返して来る。

「なんか怒ってる?」

見るからに華乃は機嫌が悪そうで竜に対して反抗的な感じだ。

華乃は藤ヶ瀬が散々自分を振り回して
最後は良いところのお嬢さんと結婚するかと思うと腹が立っていた。

「部長は結婚しないんですか?

どっかの育ちのいいお嬢さんと縁談とか無いんですか?」

華乃の意外な反応が面白くて竜は吹き出して笑ってしまった。

「何だそれ?

育ちのいいお嬢さんと縁談?

俺は育ちのいいお嬢さんより
簡単に知らない男と寝ちゃうような子が好きだけどな。」

華乃の顔がみるみる赤くなり
竜は華乃をからかうのが面白くてまた笑う。

「簡単じゃなかったですよ!

あの時は…もう世の中が終わった気がしたんです。

死にたいくらい辛くて…でも死んだり出来ないし…

私にとっては清水の舞台から飛び降りる気持ちだったんですよ。

部長にとってはただの遊びだったかもしれないけど…

私のはもっと深刻で…一瞬でも誰かに愛して欲しかったんです!」

竜はその言葉であの夜のことを思い出す。

竜も深刻だった。

あの日、竜はずっと愛していた女に裏切られたと知った。

苦しくて死にたいくらい辛かった。

誰かに癒されたくて、華乃を見つけたのだ。

「俺も遊びじゃなかった。

もっと深刻で…あの夜はお前が必要だった。」

竜と華乃の間に別の空気が流れた。

二人はあの時、お互いに癒され、
お互いに救われた。

「どうしてあの後、連絡しなかった?」

華乃はその意味がわからなかった。

「お互いの名前も連絡先も知らないのにどうやって連絡取れるんですか?」

竜は今、華乃があのメモを見なかったと初め気がついた。

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