One Night Lover
華乃は夜になって藤ヶ瀬から着信があったことに気がついた。

でも自分からは決して連絡しないと意地を張る。

その後、藤ヶ瀬から電話がかかってくるのを待ち望んでいたが、
午後一度かかってきたあの着信だけで
結局その後、電話はかかって来なかった。

華乃はそれでもまだ藤ヶ瀬からのアプローチを待ってる自分に嫌気がさした。

「どうする?泊まってくか?」

華乃はそのまま渉の部屋に居ることにした。

一人で藤ヶ瀬を待ちたくなかった。

渉と近所の商店街に買い物に行き、
カレーを一緒に作った。

渉が薬を飲むのを見て、
華乃はまだ渉が薬に頼っていると分かると
あの時の事を思い出した。

人を殴り、血に染まった指で華乃を殴り、犯したあの時の渉は目の前にいる今の渉からは想像できない。

それでもいつ渉があんな風に暴力的に変身するかわからないのだ。

華乃を抱く時、渉は少しその理性を失う。

お酒が入るとなおさら酷くなった。

華乃がイヤだとかやめてとか言うと
渉は妙に興奮して無理やりそれをさせる傾向があった。

華乃はそれが快感に変わる時と恐怖に変わる時がある。

あの事件があってからはそれは恐怖でしかなくなった。

その日の夜、ベランダでタバコを吸う華乃を酔った渉がそこで抱くまねをして揶揄おうとした。

華乃が嫌がって部屋に入ろうとすると
渉の中で何かが切れた。

渉はその腕を掴み、声を出さないように口を塞ぐとベランダの手すりに押さえつけた。

華乃が震えていて、渉はそんな華乃を見て興奮した。

顎を掴まれ、無理やりキスされた。

「言うこと聞けよ。」

華乃は怖くて渉に従った。

声を殺し、ただじっと渉が落ち着くのを待った。

抵抗しない華乃を見ると薬の力にも助けられ、
血の気は引いて渉は我に帰る。

そんな自分が怖くなってそれ以上華乃に触れられなくなった。

「…ごめん、怖かったろ?」

華乃は首を横に振ったが渉はそんな自分が許せなかった。

「ごめん、俺まだ…ダメみたいなんだ。
…華乃もここにいちゃダメだ。

駅まで送ってくよ。」

渉は上着をハンガーから取って羽織ろうとした。

華乃も今はまだ渉のそばに居てはいけないとわかった。

「大丈夫。一人で帰れる。

また逢いに来るから。」

そう言って部屋を出た。

渉は何も言わなかった。

華乃は渉に悪い事をしたと思って逢いに来た事を後悔した。

結局、自分の居場所はどこにもない。

華乃は終電ギリギリで真夜中に部屋に戻った。

真っ暗な部屋は肌寒く、
そこには孤独しかなかった。









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