One Night Lover
華乃はそんな健に驚いて突き飛ばした。

「な、何するの?」

「うるせー、揶揄うなよ。

俺はお前と結婚しようとしてた男だぞ。

過去のことほじくり返して揶揄うなよ。」

健が男の顔になって華乃は少し怖くなった。

「ねぇ、何しに来たの?」

「来たら悪いのかよ?」

「私達もう終わったんだよ?気安く来ないで。

キスもしないでよ。」

健はかなり酔ってるみたいで
華乃のことをまだ自分の物だと思ってるみたいに振る舞った。

「華乃…何でだよ?

お前、こんなもんじゃないよ。

こんなとこでくすぶってんなよ!」

華乃はそんな健の言葉が少し嬉しかった。

「雨来梨沙にもう一度逢わせてもらえない?」

健はその言葉を待ってたように

「いいよ。ただし、今度は必ず逢いに行けよ!

じゃないと無理やりにでもお前と結婚するからな。」

そう言って、健はソファで眠ってしまった。

華乃はこのチャンスにかけてみようと思った。

夜中に健は目を覚まして
華乃のベッドに来た。

「華乃…」

名前を呼んで抱きしめてきた。

華乃はそんな健を受け入れた。

流されるまま抱かれて
藤ヶ瀬と別れる決意をした。

次の日、華乃は会社に退職届を出した。

「デザイン室への異動は待たないんですか?」

「はい。
自分のやりたいデザインのできる所に行って自分の実力を試したいんです。」

その夜、突然藤ヶ瀬が華乃の部屋に来た。

「会社辞めるってどうしてだ?

デザイン室に話しつけてるって言ったろ?

もう少し待てば戻れるんだ。」

「部長、もうここには来ないでください。

昨日来なかったら別れるって言いましたよね?

もう嫌なんです。振り回されたくない。

自分の足で歩きたいんです。」

竜は自分がちゃんと華乃のことを考えてなかった事を反省したが、
華乃への気持ちが少しの間、離れていたのは事実だった。

菜那を不幸にして自分だけ幸せになるのは気が咎めて、華乃と逢うより菜那に逢いに行った。

そんな情けない自分が今の華乃を縛ることはできなかった。

「わかった。

自分の力で頑張ってみろ。

でも…お前とは別れるつもりはないよ。」

華乃は男に頼らずに生きてみたいと初めて思った。

「しばらく距離を置いて考えたいです。」

「わかった。でも…たまには連絡しろよ。」

そして華乃は藤ヶ瀬と離れて
四年近くいた一流企業を退職した。

親には言えず、内緒にしたまま雨来梨沙の事務所に面接に行った。



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