お気の毒さま、今日から君は俺の妻
だが何度も『知っている』という言葉を口にしたくせに、澄花にはそれ以上踏み込ませなかったのは、龍一郎が澄花に説明する気がないからだ。勿論、澄花がしつこく聞けば話してくれるのかもしれないが、そもそも本人が話したくないと思っていることを無理に言わせたくはない。
なぜなら澄花自身がそうやって生きてきたからだ。
(私だって、龍一郎さんにハルちゃんのこと、自分のこと、何も話してない……)
それに澄花は龍一郎と契約を結び妻になったのだから、そこをつついて結婚生活を危うくするのは、フェアではないような気がしている。
(それに私が知りたいのは……もっと違うことだ)
ふと、今朝の龍一郎のことを思いだしていた――。
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「本当に、行くのか」
「はい。休みは昨日までなので」
ベッドの中で聞いていると、龍一郎の声は、低く落ち着いていて、聞いているだけで眠くなってしまう。
(とりあえずベッドから出ないと……)
夜が明ける直前だった。まだ部屋は間接照明がついているだけで薄暗い。
澄花はシーツを裸の胸元に引き寄せながら上半身を起こし、隣で横になったままの龍一郎を見下ろした。彼も当然裸で、たくましい胸や首の筋肉が淡くオレンジの光に照らされて実にセクシーだ。