お気の毒さま、今日から君は俺の妻

 澄花の謝罪を聞いて龍一郎は一瞬無言になり、それから上半身を起こすと、そっと手を伸ばして、指先で軽く頬をなでる。


「そんなことあるはずがないだろう。あの人たちも本当に喜んでいるんだ」
「あの人たち……って」
「ああ……もちろん鎌倉の両親だ」


 龍一郎はまじめにうなずく。


「そもそも彼らからしたら、生涯独身を貫くと思っていた私が結婚するだけで澄花には感謝の気持ちしかないんだ。改装なんて全く問題じゃない」


 龍一郎はそういうが、澄花は彼が独身主義だったこと、そして両親のことを“あの人たち”という他人行儀な単語で表現したことに、少しドキッとしていた。


(もしかして本当はご両親と不仲だったとか?)


 だが数少ない対面を思いだしてみても、彼らは大企業であるKATSURAGIの社長とその妻とは思えないフレンドリーさだったし、澄花を一目で気に入ってくれたらしく、初対面の日から、『いつでもいいから遊びに来てね、約束よ』と指切りまでさせられたくらいだ。

 ちなみにふたりとも六十代半ばだったが、龍一郎との血のつながりを感じる、実に華やかな容姿をしていた。そして天真爛漫を絵に描いたような彼らから、どうやったら龍一郎のようなひんやりとした雰囲気の男が生まれ、育ったのだろうと不思議で仕方なかったのだが――。

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