お気の毒さま、今日から君は俺の妻
そして龍一郎はそのまま澄花の肩に手を置いて、首筋に軽くキスを落とした。かすかに触れる甘い吐息に心臓が跳ねる。
「あ、あの…」
ゆっくりと押し倒されていることに気が付いたのは、龍一郎の唇が、首筋からどんどん下っていってからで――。
「あの、仕事にっ……しご、あっ……」
「大丈夫だ。職場まで車で送らせよう……」
なにが大丈夫なのか。遅刻しなければいいというわけではないのに――。
だが結局、澄花は龍一郎の甘い誘惑に流されて、またシーツの海に溺れることになったのだった。
―――――
(龍一郎さん、なかなか離してくれないから……)
そんなこんなで――今朝のやりとりを思いだすと、澄花は顔から火が出そうになる。
神妙な顔をしてココアを飲む珠美の横で、手のひらで自分の顔をあおいだ。
だが、ホテルで数日過ごして、ようやくはっきりしたことがある。
龍一郎は確かにいろんなことを隠しているようだが、それが一番の問題なのではない。
彼は愛している、愛したいと言うが、愛してほしいとは言わない。
熱烈に澄花を求めるのに、同じ熱量で自分を求めてほしいとは言わない。
ただそばにいてくれるだけでいいと念押しする。
求婚されたときも、その後も、繰り返し『愛さなくていい』といった彼の言葉を『体だけ欲しいということなのか』と疑いもしたが、そうであればふたりの関係は、もっとドライだったはずだ。
龍一郎はあれこれと求めているようで、結局なにも求めていない――。