お気の毒さま、今日から君は俺の妻

「――ここだ、ここ」


 周囲を見回すと、カウンターの奥のリラクゼーションゾーンのハンモックの下から、のそりと男が起き上がる姿が見えた。

 白いシャツにデニムというカジュアルな装いだが、いったいどういう寝方をしたらそうなるのか、精悍な顔立ちをしているのに、髪はあちこちに向かって跳ねている。腕や肩を回しながら立ち上がると、かなり背が高く、スタイルがいいことがわかった。
 そしてその顔は――ふたりともよく知る人物だった。


「しゃ……社長っ!?」


 澄花は慌てて社長に向かって頭を下げる。


「えっと……おはようございます」
「おはようございますぅ~でもどうしてわが社の社長がハンモックの下で寝てるんですかぁ~!」


 珠美はぶーぶーと唇を尖らせながらも、仕方なさそうにぺこりと頭を下げた。

 そう、男はタカミネコミュニケーションズの社長、高嶺正智(たかみねまさとも)その人だった。大学院生の時に当時サラリーマンだった天宮を誘い、現在の会社の前身となる企業を立ち上げ、今では売上高一千億の大企業にした。実に優秀な男である。

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