お気の毒さま、今日から君は俺の妻
ただ、ハンモックの下で寝ているところを見ると、ただの変人でしかないのだが――。
「どうしてって、気が付いたらここで寝てたんだよな……もう朝だな……」
高嶺は不思議そうに顎のあたりを撫でている。
どうやら自宅に帰っていないようだ。そういえば噂で社長の奥様が出産のために実家に帰っていると聞いたので、職場に泊まり込んでいたのかもしれない。
「あー、よく寝た」
高嶺はまたふわわと大きなあくびをすると、澄花と珠美の顔を交互に見比べ、それから壁の時計を見上げた。
「なんだまだ八時半じゃないか。お前ら早く来過ぎだ。もっとゆっくりにしろ。そもそも俺は、それぞれ個人の裁量に任せることにしてる。昼から出勤しても構わん」
「いや……そんなこと言われましても……困ります」
さすがの珠美も社長が相手だと若干いつもよりまじめなトーンになってしまうようだ。澄花はクスッと笑って、社長を見上げた。
その視線を受けて、高嶺は微かに眉を寄せる。
「そういえば先ほどの話だが」
「あっ、社長が立ち聞きならぬ寝聞きしてた件ですねっ」
珠美がすかさず突っ込む。