お気の毒さま、今日から君は俺の妻

 春樹はぼんやりと窓の外を眺めながら、一口ずつバナナを口に入れる。

 ふわーんとバナナの甘い香りが漂ってきて、澄花は病院にいて初めて、なにかの香りを嗅いだような気がした。


「あー、そろそろ冬が終わるね。空の色が違ってきた気がするよ。あ、っていうかバナナ臭いね。ごめん」


 春樹はモグモグとバナナを食べながらパイプ椅子から立ち上がると、ほんの少しだけ窓を開けた。

 すると開けた窓からそよそよと風が吹き込んできて、春樹の柔らかそうなくせ毛が風にふわふわと煽られて――。


(なんだかこの人、あったかいな……)


 本当は、風は少し冷たかったはずなのに、澄花はゆっくりと布団の中から顔を出していた。


「――おにいちゃん」
「ん?」
「わたしもバナナたべたい……」


 おそるおそるそういうと、春樹は澄花を見て、本当に嬉しそうに笑ったのだ。


「そっか。じゃあ一緒に食べよう。おいしいよ」


 “おいしいよ”と彼が微笑んだ瞬間、光の中に忘れたはずの両親の姿が見えたような気がした。


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