お気の毒さま、今日から君は俺の妻

(パパ、ママ……!)


 その瞬間、澄花の目からなにか熱いものがあふれた。

 いや目だけではない。喉の奥から熱い塊がグッとこみあげてきて、澄花はおいおいと泣き出して、ベッドから春樹に飛びついた。当然春樹は慌てたが、泣いてしゃくりあげる澄花を抱き上げて、背中を撫でてくれた。


「大丈夫だよ。きっとこれからはなんだって美味しく食べられるようになるよ」


 澄花が自分にかけた呪いを解いてくれたのは、春樹だった。

 春樹が澄花の世界に色を与え、匂いを教えてくれ、風のそよぎを感じさせてくれた。
 一度死んだ澄花を生き返らせてくれたのは春樹だった。

 白雪姫のようにキスをしてくれたわけではないけれど、眠り続ける澄花の心を目覚めさせてくれたのは春樹だったのだ――。


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