お気の毒さま、今日から君は俺の妻
(ハルちゃん……! どうして……死んじゃったの!)
突然、全身が震え、視界がにじんで、パソコンのディスプレイが見えなくなった。
澄花はハッと我に返って、バッグからハンカチを取り出して目元を押さえると、それから何事もなかったかのようにデスクの引き出しから目薬を取り出して両目に差し、またそっと涙をぬぐった。
(誰にも気づかれなかったわよね……)
澄花はドキドキしながらデスクの周りを視線だけでぐるりと見回したが、誰も澄花の異変に気づいてはいないようだ。それぞれ真剣に、キーボードを叩いたり、電話をかけたりしている。
「ふぅ……」
泣いていたことを知られないようにするカモフラージュは慣れたものだが、職場では久しぶりだったので、一瞬慌ててしまった。
おそらく珠美の『理想の王子様』という言葉に触発されてしまったのだろう。
澄花は春樹のことを思いだすときは、極力楽しいことしか思いださないようにしていたので、久しぶりに子供の頃を思い出すと、胸に刺さるものがあった。
(どうして死んじゃったの、なんて……ごめんね、ハルちゃん……)