お気の毒さま、今日から君は俺の妻
それから迎えた土曜日の午前中。
澄花は龍一郎とともに、葛城の別宅へと引っ越しを終えた。そもそも驚くほど澄花の私物は少なかったので、改装が終われば引っ越しはあっという間だ。
今日から澄花は龍一郎とふたりでここで暮すことになるのだが――。
「わぁ……」
龍一郎に伴われた澄花は、車から降りて目の前に広がる景色と、屋敷を呆然と見上げた。
開いた口がふさがらないとはまさにこのことだ。
葛城邸は想像以上にかわいらしかった。
周囲は木々で囲われているが威圧的な建物ではなく、どちらかというと昔の古き良き洋館といった雰囲気だ。壁は白く塗られていて、煙突が三本突き出しているのが見える。一階の居間からは庭園が一望でき、さらに裏庭もあり、温室設備もあるという。
庭に手を入れたと言っていた通り、玄関周りには黄色いモッコウバラが咲き乱れていた。
「あっ、モッコウバラ」
澄花はモッコウバラが好きだ。葉の形も花も、とてもかわいいと思う。
口には出さないが、思わずほんのりと笑顔になった澄花を見て、龍一郎は少し眩しそうに目を細める。