お気の毒さま、今日から君は俺の妻
出会ってから結婚まで一か月強。いくら濃密な時間を過ごしたとしても、そもそも顔を合わせた回数のほうがずっと少ないのだ。
澄花はまるで夢を見ているような、不思議な気持ちになりながら、隣に立って、屋敷の説明をする龍一郎を見上げた。
「ハウスキーパーを頼んでいるので、基本的に掃除の必要はない。洗濯も出入りの業者がいて、三日に一度取りに来る。そもそも家事は全て外注でもいいんだが……自分でやりたいということだが、本当にいいのか」
「はい。ふたりで住む家なので、なにもかも人におまかせするだけじゃないほうがいいかなって」
洗濯だって、家で洗えないドレスを毎日着るわけでもないだろう。掃除だって毎日マメにしておけばいい。
それでも手が足りないと思ったら外注で頼めばいいのであって、当分の間は、龍一郎と自分のふたりぶんくらいは、とりあえず自分の手でなんとかしたいと思っていた。
「私の仕事、ほぼ残業ゼロですし、きちんとお休みもいただけますし……。最初は戸惑うかもしれませんが、コツコツやっていけば慣れるかと思います」
澄花は階段の手すりに手を置いて、ゆっくりと階段を登っていく。
その後ろから龍一郎が付いてきて、
「――澄花」
と、手すりの上で、澄花の手を握った。