お気の毒さま、今日から君は俺の妻
「あ……」
それは、大きな幾何学模様の格子窓から降り注ぐぽかぽか陽気には不似合いな、官能的な指先だった。
「私のように、十も年が離れたおかしな男の妻になって……一方的に欲望をぶつけられて……。戸惑うことばかりだろうに、それでもきみは自分の足で立とうとするし、ふたりの生活をきちんとしようと考えてくれる。その心映えが本当に美しい」
「龍一郎さん……」
「私がきみなら、私の財産を食いつぶすつもりで、暴君になるよ」
「暴君……?」
澄花は真面目な顔で考えて、首を振り、笑った。
「そんなことを言われても、暴君ってどうやったらなれるんですか?」
お金を好きに使っていいと言われても、あまり物欲がない。そもそも、わざわざ龍一郎を困らせたいとも思わない。だがなぜか龍一郎は澄花にはその権利があるといわんばかりの態度をとるのだ。
その意味が澄花には分からない。