お気の毒さま、今日から君は俺の妻
廊下の奥にあるパウダールームは無人だった。軽くメイクをなおして廊下に出ると、
「栫さん?」
と、名前を呼ばれた。
声のしたほうを振り返ると、
「あっ、天宮さんっ!」
なんとそこにはタカミネコミュニケーションズ副社長の、天宮が立っていた。
どうやら隣の個室にいたらしい。濃いネイビーのストライプのスーツ姿で、実に華やかだった。彼の周りには同世代くらいの外国人が数人立っていて、英語で会話をしている。
澄花が軽く会釈すると、彼はその外国人たちに一言二言告げて、その場で別れた後、澄花の前にやってきた。
「あちらの方たちはいいんですか?」
「ああ。もうここで別れようって話になってたから、問題ないよ。気の置けない友人たちだから」
そしていつもとは装いが違う澄花を見て、天宮はにっこりと笑う。
「思わず栫さんって呼んだけど、結婚したんだったよね。今日はご主人とかな?」
「はい、そうです。あの、名前に関しては職場ではそのまま旧姓を通していますからお気遣いなく」