お気の毒さま、今日から君は俺の妻

 澄花は黒の着なれたノースリーブのコットンワンピース姿で、霊園の前にタクシーを停めて降りる。その腕には大きな生花を抱えていた。


「澄花」
「あ、龍一郎さん!」


 霊園の入り口にはスーツ姿の龍一郎の姿があった。上着は脱いでベスト姿で袖をまくり、手桶を持っている。


「掃除は先に済ませておいた」
「えっ、ごめんなさい!」
「謝ることはない。仕事が早く終わって、早く着いたんだ。行こう」


 水がたっぷり入った手桶を軽々と運びながら、龍一郎はスタスタと慣れた様子で歩き始めた。

 一歩足を踏み入れると、蝉の声が周囲から降り注いでくる。


(耳がどうにかなりそう……)


 少しうんざりしながら、整備された玉砂利の道を歩く。


 ここは春樹が眠る丸山家の墓がある霊園だ。

 月命日には、ふたりで来ようと龍一郎から言われて、今日で二回目だった。
 墓の前で、澄花が持ってきた花を受け取った龍一郎は、チョキチョキと慣れた様子で茎に花ハサミを入れて、花立てにさす。


< 290 / 323 >

この作品をシェア

pagetop