お気の毒さま、今日から君は俺の妻

(口に出さないと伝わらないからと、なんでも言ってくれるようになったと思っていたのに……)


 だが人はそう簡単に変わることはできないのだろう。
 相変わらず口が重い龍一郎に、澄花は少しだけ悲しくなった。

 車がゆっくりと減速する。ちょうど左折レーンの赤信号に引っ掛かったらしい。

 目の前の横断歩道を流れていく人を見ながら、澄花は発作的に口を開いていた。


「ここで降ります」
「は?」


 その一瞬、龍一郎が目を丸くして隣の澄花に目を向けた。


「降ります」


 二度目にそう意思表示すると、少しだけ胸がスッキリした。


「龍一郎さん、話す気がないみたいだから」


 そして手早くシートベルトを外し、澄花は助手席のドアを開けるとひらりと道路に降りる。


「澄花っ」


 名前を呼ばれたが知らない顔をして、バタンとドアを閉める。


(『いや、別に』ってなんなの? 龍一郎さんのばかっ……!)


 じわりと涙が浮かんだが、澄花は手の甲でぐいっと拭いて澄花は駆け出していた。

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