お気の毒さま、今日から君は俺の妻
「では君の望みはなんだ」
少し苛ついたような声色の、龍一郎の目は鋭かった。その眼差しに心の奥底まで、嫌なところまですべて見透かされそうな気がした。
(嬉しいことがないなんてつまらない人間だと思われるわよね。どうして正直に言ってしまったんだろう……でも、これは本当のことだ)
澄花は龍一郎に包み込まれていた手を引いて胸の前で握りしめる。
「望みも……ないです」
自分の人生に、ああしたいだとか、こうなりたいだとかそんなものはないのだ。そんなものはとうに忘れてしまった。
「本当に?」
「はい」
だがふと――澄花の脳裏に、刹那的な考えがよぎる。
「そういう葛城さんにはあるんですか?」
「なに?」
澄花の言葉に龍一郎が一瞬眉をひそめる。
「嬉しいこととか……楽しいこととか。こうなりたいとか、夢とか、希望とか」
この時の澄花は、少し気分が落ちていたのかもしれない。目の前の、美しいけれど無表情極まりないこの男を、少し困らせてやりたいと思ってしまったのだ。