お気の毒さま、今日から君は俺の妻

 ちなみに天宮は年は三十代半ばで、愛妻家の社長と違い独身ということもあり社内で絶大な人気を誇っている。

 結婚したい独身男性社内ナンバーワンなのだが、澄花にとって天宮はそういう対象ではない。ただ単に、副社長という重い立場の割には、かなり気さくな人だという程度だ。


「すみません、勝手に」


 咎められたわけではないとわかっていたが、澄花はまじめに、天宮に向かってさらに頭を下げた。

 澄花は都内の女子大を卒業後、タカミネコミュニケーションズに入社し、それから三年、総務で働いている。総務では事務を担当しているが社内に飾ってある花の手入れをする必要はない。そもそも社内の植物はみな出入りの業者のフラワーショップが管理している。花は古くなったらさっさと捨てられ、新しいものに取り換えられるだけだ。

 それでも朝早く通勤したついでに世話をしているのは、花が簡単に棄てられることに抵抗があったからだ。


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