お気の毒さま、今日から君は俺の妻

 そうやって、いつものように職場のエントランスやロビーにある花瓶の花の世話をしていると、

「おはよう。今日も早いね」

 ちょうどエントランスに入ってきた副社長と、ばったり出くわした。


「おはようございます、副社長」


 彼の名前は天宮翔平(あまみやしょうへい)。澄花が勤めるタカミネコミュニケーションズの副社長だ。ずいぶん早い出勤だが、見たところ特に連れはいない。天宮ひとりで早朝出勤らしい。


「花の持ちがいいと思っていたら、いつもそうやって栫さんが世話をしてくれてたんだね。気が付かなかったよ」


 天宮はわざわざ立ち止まって、くっきりした二重まぶたの目を軽く見開いた後、肩をすくめる。長身で甘い顔だちをした王子様風な天宮がそんな仕草をすると、妙にさまになる。

 いつも英国風の仕立てのいいストライプのスーツを身にまとって、朝の八時になったばかりだというのにとても優雅で、たたずまいからして洗練されている。例えるなら血統書付きの長毛種の猫だ。隙がない。


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