お見合い愛執婚~俺様御曹司に甘くとらわれました~
「私は別にこの子が誰と結婚しようとかまわないの。人生一度きり、レールを敷いてやるのは簡単だけど、それを歩いていって本人が後悔しないとは限らない。もちろん、自分が下した決断も後に悔やむこともあります。でも、自分自身で選んだ未来なら、納得もできるでしょう。地に落ちても、自分で選んだ道ならまた立て直す気力も沸くかもしれない。一番の悪は、背負う責任を放棄して、他人にそれを丸投げすることです」
静かだけれど、力が籠った声で清子さんが言った。
夫を早くに亡くして子供を育てながら『葉山酒造』を切り盛りしてきた女性だ。
淑やかな雰囲気の中に一本真っすぐ入った芯。
その眼差しは智哉が見せる曇りのない目が同じで、智哉がこの人に育てられたことがよくわかった。
ピンと張り詰める空気だったけれど、すぐに清子さんはほんわかと表情を緩めて湯呑のお茶に口をつける。
「それに、この子は一度決めるとなかなか譲らない性格でね。高校の時なんか血気盛んすぎて、大層グレてこの家の窓ガラス全部バッドで叩き割ったの。全部ブルーシートで覆われて殺人事件か何か起こったのかという惨状でね。あの時はさすがに困ったわ。あれからもう長くて振り回せるものは持たせないようにしているの。もう大人だからそこまで激昂することもないでしょうけど」
「え?」
思わず隣の智哉を見ると、わざとらしく視線を横に逃がして庭を眺めているふりをされた。
「バッドを持たせたら右に出るものはいない」って言っていたのは、まさかそういう意味だったのか。
てっきり野球部か何かに入っていたのかと思ったのに、違う方面で使われていたようだ。
まぁ、よく怪我してたしね。
過去、アンパンを買いに来る顔や手に何度か怪我をしていたのを思い出す。
家が大きいとそれだけしがらみも大きいものがある。それとなく前に話してくれたことが頭の中に蘇った。