恋は盲目、愛は永遠
「唯(ゆい)ちゃん、近いよ」と先輩の向坂(さきさか)さんは言うと、私の背中と胸の上を挟むように両手で持って、私を後ろにさげた。

「あ・・・すみません」
「いいのいいの。私は唯ちゃんの注意役だから」と向坂さんは言うとフフッと笑った。

その後すぐ笑いを引っこめると、「ホントに見えないんだね」と真顔で言われた。
そこに悪意は全然なく、純粋な気遣いしか感じなかった私は、「そうなんですよ」と申し訳ない顔をして答えた。

私は「谷川産業」という会社で事務をしている。
庶務課に属しているのは、私の他に向坂さんと太田さん、課長の計4人。
久しぶりの新卒採用ということで、みんなからは「唯ちゃん」と呼ばれ、娘のように可愛がってもらっている。
とはいっても、向坂さんはまだ28歳なので、私を妹のように可愛がってくれているのだけど。

会社の人たちは、私の視力のことを理解してくれて、できることはあれこれとサポートをしてくれる。
そういう会社に入ることができて、とても幸運だ。

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