一途な社長の溺愛シンデレラ

「なにって、音を聴いてイメージを膨らませてる」

「そうか……というか」

 椅子の上で三角座りをする私から机に目を移し、社長は眉根を寄せた。

「いい加減、机の上はきちんと片付けろ!また資料をなくしても俺は知らないぞ!」

 じっと見つめると、社長は眉間の皺を深くした。

「なんだ、その目は」

「わかった、ママ」

「誰がママだ!」

「社長って沙良ちゃんのお母さんなんですか?」

 楽しげに口を挟んだのは事務と経理を担当する眞木絵里奈(まきえりな)だ。25歳で私より3つ年上だけど、大卒で入社した彼女は私より社歴が浅い。

「こんな娘がいてたまるか!というか俺は独身だし、そもそも性別的に産めないだろ!」

 絵里奈がくすくす笑う。見ると西村さんもこっそり笑っていた。

 律儀にツッコミを入れる社長は、時折こうやって社員からいじられる。

「ったく、お前らの相手をしてると疲れる。って、もうこんな時間か」

 慌ただしくカバンを拾い上げ、社長は「銀行に行ってくる」とドアを出ていった。

 社員3人が残ったフロアに、カランとドアベルの音が響いた。







< 5 / 302 >

この作品をシェア

pagetop