一途な社長の溺愛シンデレラ
「なにって、音を聴いてイメージを膨らませてる」
「そうか……というか」
椅子の上で三角座りをする私から机に目を移し、社長は眉根を寄せた。
「いい加減、机の上はきちんと片付けろ!また資料をなくしても俺は知らないぞ!」
じっと見つめると、社長は眉間の皺を深くした。
「なんだ、その目は」
「わかった、ママ」
「誰がママだ!」
「社長って沙良ちゃんのお母さんなんですか?」
楽しげに口を挟んだのは事務と経理を担当する眞木絵里奈(まきえりな)だ。25歳で私より3つ年上だけど、大卒で入社した彼女は私より社歴が浅い。
「こんな娘がいてたまるか!というか俺は独身だし、そもそも性別的に産めないだろ!」
絵里奈がくすくす笑う。見ると西村さんもこっそり笑っていた。
律儀にツッコミを入れる社長は、時折こうやって社員からいじられる。
「ったく、お前らの相手をしてると疲れる。って、もうこんな時間か」
慌ただしくカバンを拾い上げ、社長は「銀行に行ってくる」とドアを出ていった。
社員3人が残ったフロアに、カランとドアベルの音が響いた。