一途な社長の溺愛シンデレラ

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 結城遼介率いるデザート・ローズ制作会社は、社長と社員4人だけの小さな広告制作会社だ。

 商品の販売促進プランニングからCM動画・WEBサイトの制作、店舗のトータルプロデュースまで、広告に関することならなんでもやる。

 といっても飛び込みの仕事はほとんどない。

 営業の御池(みいけ)さんが取ってくる案件と、ときどき社長のツテで舞い込んでくる大手広告代理店の下請け仕事が、私たちの日々の業務だ。



 会社のある仲野坂駅から地下鉄で4駅。改札を抜けるとどこか懐かしい匂いに迎えられた。

 軒先に提灯をぶら下げてひしめきあう小さな飲み屋と個人商店。ごみごみした街並みは、小奇麗なオフィス街よりも気持ちを落ち着かせてくれる。

 通りを歩いていると、腰の曲がったおばあさんが往来のど真ん中に立ち止まって地面を見つめていた。

 自転車にひかれそうになっていて、私は思わず駆け寄る。

「どうしたの、おばあちゃん」

 私を見上げると、見知らぬ老婦人は困ったようにあたりを見回した。

「お守りをね、どこかに落としちゃったみたいで」

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