今宵、エリート将校とかりそめの契りを
琴は総士の大きなベッドを前に足を止め、溜め息をついた。


(正一さんとの結婚を、今真剣に考えられないのも当然だわ。それが実現する日が来たら、その時総士さんは、って思ったら……)


考えるのも恐ろしい気分で、心は八方塞がりだ。
早く寝よう、と自分を促し、総士のベッドに腰を下ろした。


いつもは総士が掛布団を上げるのを待ち、誘われて入るベッドに、一人で身を滑らせる。
裸足の指先にシーツが冷たく、琴は反射的にピクッと震えた。
そろそろと、おっかなびっくり身体を横たえ、しっかりと肩から布団を掛ける。
しかし、ベッドはすぐには温まらない。
琴は小さく身を丸めて、小刻みにカタカタと湧き上がる震えを堪えた。


(いつもはこんなに冷たくないのに……)


なかなか温まらないことにも戸惑いながらも、琴は合点して納得した。
この広いベッドには、いつも先に総士が入っている。
琴が横たわる時は、既に彼の体温で温まっているのだ。


独り寝のベッドは広過ぎて寒い。
総士の体温が感じられないのが寂しくて、琴の胸がきゅんと震えた。


こんな風に切なく胸を疼かせる自分に戸惑う。
これも佐和子に言われたように、絆されているからなのか。
彼に情を持ってしまった証拠なのか――。


自分に問いかけながら、琴は固く目を閉じた。
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