今宵、エリート将校とかりそめの契りを
「総士、さ……」


身体に落ちる総士の影が薄まるのを感じながら、戸惑った声で呼びかける。
続いて身体を起こすと、彼は琴に背を向けて「すまない」と謝った。


「酔っていてカッとした。水に流してくれるとありがたい」

「あ、あの、総士……」

「お休み、琴」


顔を隠したままドア口に向かっていく総士に遮られ、琴は慌てて自分もベッドから降りた。


「待って、総士さん。どこへ……!」


裂けた夜着を片手で胸元に寄せ集め、爪先にスリッパを突っかける。
急いで総士の後を追うが、彼は寝室を出て、琴の鼻先でバタンと音を立ててドアを閉めた。


「あ……」


目の前で閉ざされたドアが、まるで総士の心への立ち入りを阻んでいるように思えて、琴はドアノブに手を伸ばすこともできない。
独り寝の冷たいベッドに戻る気になれず、琴はその場にペタンと座り込んだ。


怖いくらい打ち鳴っていた鼓動は治まりつつあった。
意識的に肩を動かし、乱れた呼吸を整えようとする。


「……どうして」


少し落ち着いてみると、なぜ総士があんなに怒ったのか、琴にはまったく解せなかった。
彼が琴に感情を露わに怒鳴りつけた言葉はどれも、正一……他の男と会っていた彼女への憤りでしかなかったからだ。
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