今宵、エリート将校とかりそめの契りを
「逢引……不貞……。そうじゃない。全部誤解だわ」


膝の上で薄い夜着を握りしめ、ポツリと呟く。
総士の皮肉交じりの言葉が、脳裏を過った。


『俺に抱かれるのが嫌か』


途端に、琴の胸はドクッと疼くような音を立てて跳ね上がった。


――嫌じゃない。


心の中に浮かんだ返答を口にはできないまま、琴は身体を前に倒し、肩を震わせた。


「警戒して、先に背を向けるのは、あなたの方じゃない……」


毎晩毎晩――総士がどんな気持ちでいるか、琴にはまったくわからない。
二人に必要なのは夫婦としての歩み寄りではなく、どちらが先に警戒を解き、隙を見せるかの我慢比べだったからだ。


しかし――。


『誰がお前に、そんなことを話したんだ?』


それを総士に話せたなら、彼はなんと答えるだろうか。


本当のことを話してくれる?
それとも取り繕って嘘をつく?
総士が嘘をついても、琴は信じようと思うのだろうか……。


自身への問いかけに、答えは見つからない。
独りポツンと取り残された寝室の夜気は、とても冷たく身体を包むのに、琴は立ち上がることもできず、ただ声を殺して涙を流した。
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