今宵、エリート将校とかりそめの契りを
翌日の朝食の席に、総士の姿はなかった。
大きく広い長方形のテーブルの一番端に、琴の食事が用意されている。


特別な夜の食事は洋食が振舞われる名取家でも、朝は琴にも馴染み深い和食がほとんどだ。
今朝の献立は、白米に味噌汁。
副食は昆布の佃煮にのり、半熟卵だった。
夕食に比べると質素だが、これまでの食生活を考えれば、琴にとっては贅沢すぎるほどだ。


しかし、今日、食事が用意されているのは琴の席だけだ。
向かい側の総士の席は綺麗に片付いて、彼が来る気配もない。
琴はソワソワしながら、忙しく給士に勤しむ女中を呼び止めた。


「総士様でしたら、朝食はいらないと言って、軍部に向かわれましたよ」


琴の湯呑みにお茶を注ぎながら、女中は特に表情を変えずに答える。


「そう……」


彼が食堂に来ないことは予想していたが、琴はガックリと肩を落とし、溜め息をついた。
たった一人で朝食の席に着くのは久しぶりだ。
琴は寂しい気分で、そっと手元に視線を落とした。


「最近は、毎朝琴様とご一緒でしたのに。珍しいですね」


女中の何気ない声かけにも、胸がズキンと痛む。
琴はぎこちない笑みを浮かべるだけで誤魔化し、なぜか味気なく感じる朝食を、モソモソと口に運んだ。
< 111 / 202 >

この作品をシェア

pagetop