今宵、エリート将校とかりそめの契りを
「っ……わ、私?」


正一に繋がる話題には反応せず、無言を貫くつもりでいたのに、忠臣の信じ難い言葉に、琴は思わず聞き返してしまった。
彼女の反応をどう捉えたか、忠臣は満足げにほくそ笑み、一度小さく頷いてみせる。


「奥方様をよく知る人間であれば、その後の行動を予測していたかもしれない。パレード中に切り掛かり、失敗に終わって捕えられる。……そこまで読んだのであれば、狙いはあなただ」

「そ、そんな……」


忠臣の言葉に揺れて戸惑う琴の目をジッと見つめながら、彼はわずかに足を引いてコツッと踵を鳴らした。


「昨夜の総士様の怒りもごもっとも。外出を許可しなかったことにしても、あなたの身を案じたからです。それを……自分の留守中に堂々と会われてしまっては」


呆然として大きく目を見開く琴に、忠臣ははっきりとそう告げた。
琴は戸惑いながら顔を上げ、彼の目を見つめ返す。


「そんな、だって……」

「まあ……あなたの情夫と結論付けたのは、一足飛びでやや謎なご乱心ですが。それを悪意と取るか、男の愚かな嫉妬と取るかは、ご自由に」


他人事のように言い捨て、忠臣は面白そうに口角を上げる。
そのまま踵を返そうとする彼の上着の裾を、琴は思わず引っ張って止めていた。


「っ……すみませ……」


自分の行動に動揺して、琴は慌てて彼の裾をパッと離した。
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