今宵、エリート将校とかりそめの契りを
首を傾げ、夜着の上に羽織ったガウンを胸元で握りしめる。
耳を澄ましてみると、階下が騒がしい。


なにかあったのだろうか。
琴は恐る恐る部屋のドアを開けた。
その途端。


「きゃあああっ! 総士様っ……!」


廊下に顔を覗かせる間もなく、女中の甲高い金切り声が琴の耳に届いた。
闇をつんざくような叫びに、琴は大きくビクンと震え、その場で凍りついたように身を竦ませる。


(なに? 総士さん……!?)


階下から漂う、明らかに不穏な空気。


(総士さんに、なにかあったの!?)


投げかけた疑問に煽られるように、心臓がドクンと大きな音を立てて拍動した。
全身を巡る血流に勢いが増す。
それに突き動かされるように、琴は階段に向かって駆け出した。
螺旋階段を転がるように駆け降りる。


「どうしたの!?」


玄関に続く踊り場に差しかかった時、さらに引き攣れるような声が耳に届いた。


「誰か! 誰か……」


それを聞いて、琴はピタリと足を止めた。


「騒ぐな。大したことはない」


琴が見下ろす先、玄関の前にうずくまるように座っていた総士が、彼の傍らに膝をつき、オロオロする女中を、鋭い一言で制す。


「す、すぐにお医師を……!!」


女中が気を取り直したように立ち上がり、屋敷の奥に走っていった。
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