今宵、エリート将校とかりそめの契りを
そのおかげで、彼女の陰になり見えなかった総士の姿が、琴の目に飛び込んでくる。


「……っ」


その途端、琴の視界は赤一色に染まった。
あまりに鮮やかな赤に、一瞬クラッと目が眩む。


「総士さんっ……!?」


琴は慌てて階段を走り降りた。
自分に駆け寄る琴に気付いた総士が、わずかに額に脂汗を滲ませ、苦痛に顔を歪ませた。


琴は女中と入れ替わるように、彼の傍らに膝をついた。
総士の右肩から上腕まで、血でぬらぬらと濡れているのを見つけ、小さく「ひっ」と悲鳴をあげる。


「総士さん、お怪我を……!」


琴は顔面を蒼白にしながらも、総士に手を伸ばした。
しかし。


「触るな」


総士は右腕をかばっていた左手で、琴の手を素っ気なく払いのける。


「っ……」


わかりやすく拒まれたことに傷つき、琴はキュッと唇を噛み、顔を歪ませた。
しかし、総士はそっぽを向いて、一言ボソッと続ける。


「汚れる」


小さな呟きに、琴は焦らされた気分で勢いよく首を横に振る。


「そ、そんなのっ」

「総士様っ!?」


言い返そうとして琴が身を乗り出した時、忠臣や他の使用人が、屋敷の奥からわらわらと出てきた。
玄関先で座り込んでいる総士を見て、みんな一様に息をのむ。
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