今宵、エリート将校とかりそめの契りを
言い返すだけ無駄とばかり、総士はこの話題を引き取ることにした。
そして忠臣は、彼のそんな空気を敏感に読み取る。


「総士様。あの女……なんでも早乙女軍曹の妹だとか」


笑みを消し、声を潜めて訊ねる忠臣に、総士は「ああ」と相槌を打った。


「どうやら、兄の戦死は、俺が見殺しにしたせいと思ってるようだ」

「逆恨みで殺されかけるとは、総士様は相変わらず悪運が強い」

「殺人未遂とも言えないほど、下手な襲撃だったがな」


忠臣の軽口は受け流し、顔を正面に向け直す。
長い足を大きく組み上げ、顎に手を遣って逡巡した。


「早乙女子爵と言えば……先祖を遡れば、天皇陛下の外戚に当たる日本屈指の名家。しかし先の戦争特需で商売敵に騙され、一気に傾いた没落華族……そうだったな」


総士に訊ねられた忠臣は、「はい」と短い返事をする。


「根っからの公家育ちで、商才には恵まれなかったようです。借金を返そうと危険な投資話に手を出し、結果、自転車操業状態に。十七歳の娘の学費すら支払えず、滞っていたとか」


忠臣が先を引き取って流暢に説明するのを聞いて、総士は無言で何度か頷く。
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