今宵、エリート将校とかりそめの契りを
どこか嫌味っぽい溜め息をつくのを聞きながら、総士はそれを目の前で回してしげしげと見つめた。


「……俺も最初は試してたんだよ。これがここにあるか、毎夜確認していた」

「え?」


短刀を眺めながら逡巡する総士に、忠臣は訝しげに聞き返す。


「パレードの時、琴が俺に向けた殺意は本物だった。俺はあの場でこれを没収したから、琴は二日目の夜、素手で俺の寝首を掻こうとした」

「……総士様?」

「しかし、俺の命を手中にしたというのに、琴は俺にとどめを刺さなかった。それでも琴がまだ俺に殺意を抱いているなら、これを取り返そうとするんじゃないかと考えた。俺がいない間に家探しでもなんでもして。だが、これは依然としてここにある」


総士はコトンと音を立てて短刀を机に置き、長い足を組み上げた。
なにかを憂いるような表情で、床に着いた足を軸にユラユラと揺らす。


「お前の言う通り、腐っても子爵令嬢だ。俺が不在の間に机を漁るような真似をする女じゃない。殺意さえ削いでしまえば、悪意など持てない女。……琴は夫を裏切る妻じゃない」


総士は溜め息交じりにそう言って、喉を仰け反らせて天井を仰いだ。
忠臣が眉間にクッと皺を寄せるのを見て、総士はゆっくりと足を組み上げた。


「昨夜の件ではっきりわかった。琴に兄の戦死の詳細を教え、利用した男の狙いはあくまで俺だ」
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